巫と新屋がゆく、奇ッ怪其ノ一「遠野物語」
「前川君の作品にかかわっているときは“これは偶然というには確率が随分と低い”と思う出来事がよくあります。」
イキウメという劇団の「奇ッ怪其ノ三」という作品に出演されていた、仲村トオルさんの言葉です。
今回は、高校からの友人で、表現者のななみさんと岩手に行った時の「ありえない偶然と役者冥利」という話をしますね。
【なんとなくっていう偶然】
ななみさんとね、旅がしたいねぇ、って話をしていて、そうだねぇ、行こうよ、って。
そんな感じで決まった旅行でした。
「初夏だから、東北とか涼しくない?」
「あまり北すぎたら寒いかなぁ」
「福島と秋田は行ったことあるからナシ」
「んー…、岩手あたり、行ってみるかぁ!」
「ホテルよりも民宿とかの方がそれっぽくない?」
ほんとに、こんな感じ。笑
思い立ったら即行動!ってことで、勢いで深夜バスとってお互い行きたいところ探したりしてね。
それが4月半ばのこと。
思えばこの時から全て繋がっていたんですよね、きっと。
【イキウメという劇団】
少し時間が経って、ななみさんが「イキウメ」という劇団の舞台を観てきた日があったんです。
ものすごくおすすめをしてくれたんです、私ね、ななみさんの劇的センスが素晴らしいことを知っているから、そんなの観たくなるじゃないですか。
そしたら、ななみさんが「イキウメのDVD持って行くから、夜行バスの中で見よう!」って言ってくれて。
楽しみがまた一つ増えたなぁ、としか思ってなかった5月の初め。
【巡り合わせ】
いよいよ旅行当日!
1泊2日の予定だったのですが、2日目が生憎の雨でして、行きたかった場所を急遽変更し、2日目どこ行こうかぁ、なんて言いながら、とりあえずお楽しみの「イキウメ」鑑賞。
幾つかある作DVDの中で、ななみさんが選んでくれたのが「奇っ怪其ノ三」という作品でした。
これ、遠野物語という民俗学小説を題材にしているんですけれど、遠野、というのは岩手県の地名のことで、奇っ怪話や伝承話が多いことで有名だそうです。
河童や座敷童子発祥の地、あとは、オシラサマ、とかね。
劇中、亡くなったおばあさんが、幽霊になって孫のことを駅まで迎えにくるシーンがあるのですが、その駅が「遠野駅」なんです。
ここを見た瞬間、私、ぞっとしてしまって。
だって、今回泊まる宿がね、遠野の民宿だったから。
私が宿泊やバスの予約担当、ななみさんは巡る観光地リスト担当だったので、ななみさんは遠野に泊まることを知らないまま、このDVDを持ってきたことになります。
………え。
しかも、霊峰や山男なんかの話も出てきたのですが、わたし達が泊まる民宿はまさにその山の麓。
ななみさんにその話をして色々話した後、2日目は遠野という場所、遠野物語の著者、柳田國男について調べたり学ぶ日に変更しました。
(遠野市には、色々な伝統や資料を集めた施設がたくさんあるのです)
【語り部に守られ、語り継がれている遠野の伝承話】
皆さん聞いたことのある昔話。
先ほども言っていた河童や座敷童子、マヨイガ、舌切り雀に瓜っ子の話など、遠野からはあまりに多くの伝承話が伝えられ、全国に広まっていきました。
けれど、実は悲しい、身分差の恋の苦しさや、人々の貧しさ、神様への信仰心を身近に感じるための大切な気持ちが込められたものが多いのです。
そして遠野には、いつの時代も伝承を継いでいけるように、忘れないように、と、それを語る「語り部」と呼ばれる方々が何人もいるのです。
東北の方言で話してくださるので、最初は6割わからないかも…笑
「むかし、あったずもな」
訳:むかしむかしのお話なんだけどね
から始まり
「どんどはれ」
訳:これでおしまい。
で終わる。
子供に戻って、おばあちゃんに絵本を読んでもらっているような感覚でした。
語り部さんのお話会(1日に2〜3回あります)が終わったら館内を巡るんですけれど…
結構フォトジェニックで楽しい。笑
なんとなく行くことになった岩手旅行だったけれど、やはり私もななみさんも「表現者」「役者」という仕事柄、こういう運命のような偶然を呼んでしまうのかしら。
何かの作品について、その背景について。
そこで生きた人について学ぶことができる環境に自分の身を置くことができること
そういう意味での自由であるということ、同時に縛られているということ。
役者冥利に尽きるというか。
やっぱり私たちはふつうの女の子になんてなれないのかもしれないね、なんて。
他にも観光したりだとか、綴りたいことはありますけれど、とりあえず今日はここら辺で。